dicker 動詞 *dekm 表1>8
=========* 註 *=========
今日のアメリカ英語では、dicker は主に動詞として、「(値段のことで) 駆け引きする」 「値切る」 の意味で使われるが、元々は「物々交換する」という意味 でもあった。動詞dicker の語源については、多くの辞書が、ラテン語 decuria である、あるいはその可能性が高いと言っている。

ラテン語 decuria は「10」と「成人男子」に分解できる語で、十人一組をあらわすときに使われたが、のちに、貢物や交易品としてローマに入る 獣皮(毛皮やなめし皮など)を数える単位にもなった。

ゲルマン民族 とローマのあいだの交易では、獣皮は 主要品目の一つだったから、これをローマにもたらす側のゲルマン人の言語の多くに、decuria は借入されている。例えばオランダ語 daker やドイツ語 Decher であるが、古英語にも*decor という語があったと 考えられている。

この語は、中英語では綴りが dikerdakredycker などとなるが、「10個1組の荷」「獣皮10枚の1組」の意味で使われた。

16世紀末ごろから北アメリカで、ヨーロッパ人と先住民の毛皮交易が始められた。ヨーロッパ人は銃、火薬、斧、ナイフ、 ヤカン、食器、毛布、布地、石鹸、ろうそく、上質という触れ込みの安酒、ビーズで作った安ピカ装身具などを続々と持ち込み、先住民の提供する「やわらかい黄金」 たる毛皮と物々交換したのである。

この交易は次第に大規模なものになり、その過程で「獣皮10枚の1組」という意味を持つ名詞 dicker が、「物々交換する」という意味になり、さらには「駆け引きする」 「値切る」という意味になった、というのが、動詞 dicker のラテン語 decuria 語源説である。本辞典もこの説を採用した。