新英語辞典 (仮称) 』 の使い方

『新英語辞典』 (見本版) は制作途上にあるものなので、現時点では任意の語を検索することは できません。 索引 (見本版)をご覧頂き、興味のわく語を引いてみる、というやり方でお使いください。

ここでは、 agent という語を調べる場合、この辞典がどのように使えるかをためしてみましょう。

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先ず次の英文を読んでください。バイオ燃料の生産工程で生まれる廃棄物から、 食品に入れる agent を作り出す方法が開発されたというニュースの冒頭部分です。

agent が 「代理人」 「諜報員」 「捜査官」 などであることは多くの人が知っていると思いますが、この中に二度出てくる agent は明らかに この意味ではありません。文脈をたどれば、この agent は両方とも、文中にある chemicals (化学物質)の一種であることがわかると思います。 そこで、 agent には「化学物質」と いう「意外な意味」があることがわかった、覚えておこう、ということになるのですが、 これだけで済ませてしまっては面白くない、と私たちは考えます。

私たちが提案する 『新英語辞典(見本版)』 を使ってみましょう。索引の中に、 agent は次のように出てきます。

この一行は、 agent という名詞は、 agere 表1> という表の中の 3 番に入っていて、例文が付いているということを示します。 この 3 をクリックすると、次の表が出てきます。


agere 表1> の表は、 ラテン語の動詞 agere に由来する英単語を品詞別に整理したものです。 表題が示すように agere は多義的な語ですが、「行う」 「動かす」 「駆り立てる」 「行く」 という意味が全く関連の無いものでは ないことは段々にわかってきます。先ずは、3番の agent を見てください。そこには以下の説明が書かれています。

とっつきにくいと感じる人は、文法的なところはとりあえず無視して、ラテン語 agere の「行う」という意味が、 英語 agent の語源的な意味であることをつかめば良いのです。 この「行う」を、 agent の基本的なイメージとして押さえておけば、「代理人」「諜報員」「捜査官」などが別々の意味ではなく、 「行う人」という共通の意味でつながっていることが理解できます。先ほどの「化学物質」も、 食品に何かを「行うもの」で、flavoring agentは「香味料」のことです。 「風味付けを行う」わけですね。ついでですが、「冷却することを行う」のがcooling agent(冷却剤)で、 「漂白することを行う」のがbleaching agent(漂白剤)です。 ここまで来れば、free agentが「自由に行う者」であることも納得されますね。納得という「感動体験」の仕上げとして、 例文 を読んでおきましょう。

いかがでしたか。ある単語の意味を知ろうとして辞書を引いたら、無関係に思える意味が並んでいた、ということは時々ありますね。そういう場合、 その都度その時に必要な意味だけを覚えるというやり方をする人が多いと思います。しかし、多義的な意味を持つ単語を、そのおおもとにある原義から、いわば丸ごと 把握していくことも、確実な語彙力をつけるうえで重要です。

agent のような多義語は、この「見本版」 の中にも幾つかあります。形容詞 pedestrian もその一例で、この語には、「歩行者の」と 「ありふれた」という、つながりの見えにくい二つの意味があります。 pedestrian は、 *ped- 表1>という表に入っていますが、 これは、ラテン語 pes, ped- に由来する語をまとめたものです。「」 と「歩行者の」はいかにも 関連しそうですが、「ありふれた」と「」の関連は何でしょうか。 実を言うと、 pedestrian のもとになったラテン語にも、このラテン語に影響を与えたと思われる ギリシャ語にも、「」とは無関係に思える「ありふれた」という意味があり、この「謎めいた」古代の意味が今日まで受け継がれている のです。形容詞 pedestrian は、この表の 5 番です。 表の右側から参照できる で「謎解き」をしてから、 例文 を読んでみてください。それぞれの意味を別々に丸暗記するより楽しいと思います。

さて、先ほどのagere 表1> にもどりましょう。 ラテン語の動詞 agere には「動かす」という意味もありますが、 この意味が生きている英語は、 9 番の cogitate です。 「繰り返し動かす → 心の中で繰り返し動かす」 ことから 「熟考する」 という意味になりました。この語にも註が付いていますから是非読んでください。

agere の「動かす」という意味は、6 番の agitate の 「かき混ぜる」 や 「振る」 のもとにもなっています。 agitate には、「扇動する」の意味もあります。「扇動する」は、 「人の心を繰り返し動かす」事から来たものと解釈することも出来ますが、 agere の「駆り立てる」から来たものとも解釈できるでしょう。

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ラテン語の動詞 agere は、ほかの語と結合して新しい語を作りました。これは、漢字の「動」をもとに、言動、騒動、動力など様々な 熟語が作られるのと似ています。 agere を含んだ合成語のいくつかは英語にも入っていますが、それらを集めたのが、以下の agere 表3>です。


このなかから、 10番の navigate を取り上げて、 使い方をさらに説明します。 navigate は、 ラテン語の動詞 agere (動かす) と navis (船) からなる語です。 表の中には 「船を動かす」 という原義が書かれていますから、先ずこれを確認してください。この語は実際には、 船だけでなく、飛行機を「動かす」ときにも使われ、そのほかにも字義通りの範囲をもっと広げた意味があります。これを 例文 で確かめましょう。

実際のagere 表3>には、現段階では fumigatiionnavigablevariegated にも例文が付いています。

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さて、navigate は、 「舟」 の意の印欧語根 *nāu- に由来する語を集めた次の表にも入っています。


15 番の navigate を確認してから、表全体をざっと見てください。 意外な単語が navigate と語源的に関連することがわかって面白いと思うのですが、いかがですか。

例えば、7 番の astronaut には、 「星」「船員」 から出来た語である、という説明が付いていますね。 これをもとに「宇宙飛行士」という意味を考えれば、astronaut とは、 「宇宙という の海を行く 船員 」である、という印象に残りやすい解釈が出来る わけです。この印象が薄れないうちに 例文 を読んでおきましょう。

実際の nāu- は、この「見本版」のなかでは例外的に例文が多い表です。 nautilus nave には、理解の助けになるようなインターネット上の記事も付いていますから楽しめると思います。

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ここまでくると、 astronaut 「星」 のほうも気になりませんか。astro の 部分が 「星」 ですが、これを要素としてもつ単語は *ster- (2)という 表の中にあります。この表は以下のようになっています。



この表には、「 『星』 関連の職業」が三つあります。 12. astrologer14. astronaut16. astronomer ですが、いきなり見せられるとちょっとややこしいですね。でも、もう既に naut の語源が 「船員」 で、astronaut は「宇宙飛行士」だとわかっています。残りは二つです。

astrologerlog には「論じる」という意味があり、「星を論じる」astrologer は「占星術師」です。astronomernom の部分は「法」という意味で、「星の法」を調べる astronomer は「天文学者」です。単語を語源的に分解すると以上のような 説明になるのですが、なんだか納得できませんよね。「星を論じる」のが「天文学者」でも良さそうですし、「占星術師」も自分の見立ては「星の法」に 基づいていると主張しています。

どうやらこの二つの語を、簡単な語源分解だけから区別して覚えるのは難しいようです。これは、古代からルネサンスを経て近代 にいたるまでの長い歴史を通してずっと、「天文学」と「占星術」が分かち難く結びついてきたことと関連するのです。17世紀になるまでは、 多くの天文学者が同時に占星術師でもあり、「星を論じる人」とも「星の法を調べる人」とも呼ばれていたのです。例えば、惑星の運動法則 を発見したケプラー (1571-1630) は、生活費の多くの部分を占星術から得ていましたが、占星術を半ば信じていたともいわれています。

さて、astrologerastronomer を覚えなければなりませんね。語源を援用して単語を記憶する立場にとっては、 語源分解すると混乱してしまうというのは、やっかいな事例です。ズバリと効き目のある方法は思いつきませんが、 どちらか一方を先に覚えてしまうという戦術はどうでしょう。

astronomer の方を優先させる場合、 「天文学者」 と nom を結びつける手立てを考えることです。 ギリシャ語 nomos (法)の を見てみましょう。



nom が共通する語として、2. astronomer  5. autonomy が上下に並んでいます。 「オートメーション」 や 「オートマチック」 は定着した日本語ですから、 auto の 「自身」の意味はすぐにわかりますし、 autonomy の 「自治」 「自主性」 という意味も納得できますね。そこで、 「宇宙の法を探求する天文学者」 だったガリレイには 「(教会の迫害に屈しない)自主性」 があった、とコジツケてみるのはどうでしょう。 astronomer の記憶の強化のために、 同じ語源の autonomy の応援を頼み、結果として両方とも覚えてしまおうというわけです。実際の を確認して、表の右側から、 autonomy astronomer の例文を読んでおきましょう。


ところで私たちは、英語を学ぶなら、英語を育んだ歴史や文化についても学んだほうが良いと考えています。そのため、必要と思われる語には、 その語の理解を深めるのに役立ちそうなことを註として付けるようにしました。 astrology astronomy には共通の註が付いていますが、これは、 *ster-(2)からも見ることが出来ます。

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以上で、『 新英語辞典 』 の使い方がおわかり頂けたと思います。

もう少し内容を見てみたいと思われる方は、先ほどの説明の続きからも先に進めます。説明は、 astronomer を記憶しようとする時に、この辞典をどのように使うかというところまで行きました。 この astronomer と混同する恐れのある語として出てきたのが astrologer ですが、この語の後半部分の -loger は、ギリシャ語 legein が語源です。 このギリシャ語に由来する英単語には、「アナログ」「アンソロジー」などとして日本語 に取り入れられている語も含まれています。これらは *leg- 表3> に整理されています。 この からは、更に関連する別の表へも行けるようになっています。

「見本版」の段階なので任意の単語を調べるわけにはいきませんが、 索引 からも、本文の内容を見ることができます。

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